子供が新時代を生き抜くカギとなる、世界が注目のSTEM教育とは?

2017.10.20 10:07 更新

読了時間:11分12秒

 

突然だが、STEM(ステム)という言葉をご存知だろうか? Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の教育分野を総称する単語であり、各分野の頭文字を取ってSTEMとワンワードにしている。アメリカのオバマ前大統領が在任中、「”オタク”になることが、国に貢献するベストな方法だ」とインタビューに応え、STEM教育を推進したことでも話題になった。今や、世界中の教育業界で重要視されているSTEMだが、日本ではまだあまり馴染みがない。そこで、今回はそんなSTEMについて学ぶべく、国内で唯一、STEM教育を行うローラス インターナショナルスクール オブ サイエンスを訪れた。

これからの時代で求められる“問題解決型”の人材を生み出す

「STEMは、それぞれScience、Tecnology、Engineering、Mathmaticsの各分野を統合して学び、論理的な思考のプロセスを学んでいくことで、問題解決型の人材を育成していくことを目指します」とローラス インターナショナルスクール オブ サイエンス校長の日置さんは語る。

今回、STEMについてお話を伺ったローラス インターナショナルスクール オブ サイエンス校長(株式会社バイリンガ代表)の日置 麻実さん、そして同スクールサイエンス顧問の朝日 良典さん

—知識の統合が、どのように問題を解決することに繋がるのでしょう?

朝日「例えば、“蒸気自動車”を作ろうとすると、まずは蒸気に対する理解が必要ですよね。それは科学(Science)の知識がベースになります。その蒸気を使って車輪を動かすのは技術(Tecnology)。車輪や車体などを形にするのは工学(Engineering)、自動車を動かすためにどれぐらいのサイズのボイラーが必要なのかを計算するには数学(Mathmatics)の知識が必要です。自動車を作るためには、そういった個々の知識を統合することが必要になるんです」

STEM教育では、このような流れにのっとって問題解決を目指していく

—STEM教育はどのように進められるのですか?

日置「STEM教育では、まず問題提起をします。その後、グループ内で問題解決には何が必要かを話し合ってもらいます。その際には、ほかの子供たちと積極的にコラボレーションしていくことが求められ、情報を分析する能力も必要になります。その後は課題を解決するためにトライ&エラーを重ね、最終的な成果をプレゼンして、子供たちによる質疑応答も行うんです。科学、技術、工学、数学の4分野を横断しながら、問題解決に迫る手順を癖付けしていくのがSTEM教育と言えるでしょう」

このように、STEM教育が行われる工程で、問題解決に欠かせないさまざまな能力が育まれることが分かる

—2020年には小学校でプログラミングが必修になるとのことですが、STEM教育とプログラミングに違いはあるのでしょうか?

朝日「昔のプログラミング教育は、理科系の学生が数値的な答えを速く精度よく得るために学ぶものでした。今、小学校で行われようとしている教育は、物事の手順をしっかり考え、それを人に伝えることをより重視している気がします」

日置「例えば、忘れ物をたくさんする子供に、“忘れ物をしないためのプログラムを書かせる”という試みが日本STEM学会で紹介されていました。学校から帰ったら、鞄を開いて、学校からのお便りを見て、明日の時間割を確認して、と手順を作ったら、忘れ物が無くなったらしいです。ここで言うプログラミングとは、パソコンを使って行うものではなく、課題を解決するためのルールを自ら設定するという意味合いと考えてください。手順を作って、それを実行していくという意味では、STEM教育とプログラミングは、かなり似ていると言えるかもしれません」

—プログラミングを含め、様々な分野について学んでいくSTEM教育ですが、その利点はどんなところにあると思われますか?

日置「例えば、地震に強い建物を造るにはどうすればいいか等、クラスの最初にいつも問題提起があるのですが、子供は(課題を)解くことに対して強い興味を示すんですよ。今回の問題で言えば、どうすれば地震に強くなるんだろうと考えながら、あらゆる素材を組み合わせて地震に強い建物の模型を造ろうとする。こうしたものを作る過程を通して、主体的に問題を解決しようとする姿勢や、思考が育てられるのが大きな特徴だと言えるでしょう。また、グループで問題解決には何が必要かを話し合いながら課題を進めていくことで、ただ授業を聞くような受け身の教育ではなく、参加型の教育ができます。ローラスのSTEM教育では、先生が生徒に見本をあえて示さないこともあって、子供たちは独自の方法で問題解決に挑みます。自分で課題について調べていくことで、それぞれの分野への理解もより深いレベルになっているように感じますね」

—なるほど。だから今、世界中でSTEMが注目されているんですね

日置「元々はアメリカで、国家の未来を切り拓く理数系の人材を多く獲得するために始められたSTEMですが、今やヨーロッパやアジア、アフリカを含め、世界中がSTEMの潮流に乗ろうと必死です。その背景には、IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)といったテクノロジーによって生み出される第四次産業革命、そしてイノベーションの大洪水とも言える現代の情勢があります。

ニューヨーク州立大学で教授を務めるキャシー・デビッドソン氏は、デューク大学で教鞭をとっていた当時、”2011年に小学校に入学した子供たちの65%は、大学卒業時に、今はまだ存在していない職業に就く”と予測しています。この発言には、将来の変化を予測することが困難な時代を生きる子供たちに対しては、社会の変化に受け身で対処するのではなく、自ら課題を発見し、他者と協働してその解決を図り、新しい知・価値を創造する力を育成することが喫緊の課題である、という教授の思いが込められています。そしてこの発想は、STEM教育に紐づいていきます。

情報化社会で活躍できる人材の育成手段としてはもちろん、テロや貧困など、数多く存在する深刻な問題を解決するためにも、問題解決能力を育てるSTEMが重要視されているんです」

STEMで、あらゆる問題を解決できる!?

—STEMによって、将来どんな人材が生まれると思いますか?

朝日「理数系の知識がしっかりと身に付くSTEM教育ですが、意義はそれだけではありません。どんな職業でも、トラブルや課題と対峙する機会はあると思います。そして、STEM教育を通して学ぶことができる、問題解決への思考の流れや手順は、そういった様々な問題に適用できます。さらに、プレゼン能力をはじめとしたコミュニケーション能力も養うことで、自分の頭で考えられて、さらに他の人を巻き込んで問題を解決していける。そんなすごい人材が生まれるといいですよね」

—幼い頃からディスカッションなどに多く触れる機会を作るSTEM教育は、科学者や技術者のあり方を変えていくかもしれませんね

朝日「一般的に、数学の研究者は1人や2人の少人数で研究を進めていくことがほとんどです。でもこの間ノーベル賞を受賞した、LIGO(ライゴ)重力波観測所による研究は、世界中からおよそ1000人の研究者が集まって進められました。どちらがいいという話ではありませんが、グループでの作業を幼い頃から行っていくSTEM教育には、協同作業を進めていく能力を高める効果も期待できるでしょう」

—11月には“Science Fair 2017”というイベントを開催されるそうですが、それはいったい何なのでしょう?

日置「“Science Fair 2017”は、STEM教育についてもっと多くの方に知ってもらうために始めたイベントです。当日は、実際にSTEM教育を受けている子供たちによるサイエンスプロジェクトの発表をします。他にも、STEMをテーマに様々なワークショップも行うんです。プログラミングトイを用いてロボットや火星探査機を作ってみたり、さらにはドローンを間近で見たり、3Dプリンターのすごさを体験したりできるブースも設置する予定です」

朝日「あまり難しいことを説明しようとするのではなく、子供たちが展示やワークショップを通してSTEMに触れて、“何だか分からないけどスゴイぞ”と思えるようなイベントにするつもりです。イベントに来て、とにかくびっくりした記憶だけでも残ってくれたら嬉しいですね。子供たち、そして保護者にとって、サイエンスの楽しさをより身近に感じて頂けるイベントにしたいと思っています」

—STEMを推進していく先に、株式会社バイリンガが見据えるゴールとは?

日置「名刺の裏にも書いてある、“Creating future innovators to change the world for the better.(より良い世界へと変える、未来のイノベーターを育成する)に全てが集約されています。私たちはこの世界に存在する様々な問題を解決するのは、イノベーションだと思っています。それを実現するイノベーターをたくさん輩出していくのが私たちのミッションですね」

IoTにAIと、インターネットに次ぐ新たなテクノロジーの開発が急速に進んでいる現代。それに伴って、将来、求められる人材も大きく変化している。ロボットや、人工知能を駆使しながら仕事を進めていく時代はもうすぐそこまで来ているかもしれないのだ。STEM教育が、そんな時代を子供たちが生き抜く糧となることは間違いないだろう。

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