編集者にインタビュー。漫画「君たちはどう生きるか」大ヒットへの道のり

2017.11.20 16:07 更新

読了時間:6分20秒

仕掛け人に聞く『漫画 君たちはどう生きるか』大ヒットへの道のり

“ヒット不作の年”という2017年の出版業界において、売れに売れている本がある。『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス刊)である。

1937年に刊行された吉野源三郎の児童文学『君たちはどう生きるか』を漫画化したもので、母子家庭の中学生“コペル君”(本名は本田潤一)が自身の挫折や実の叔父さんとのやりとりを通して成長していく姿を描いている。

2017年8月24日に刊行されて以来、順調に売れ行きを伸ばしていた本書は、10月から11月に大増刷が決定。現在までに53万部が発行されている。

特に10月21日にテレビ番組「世界一受けたい授業」で取り上げられた際の反響は大きく、“仕掛け人”であるマガジンハウスのベテラン編集者、鉄尾周一氏も素直に「驚いた」と口にする。

その一方で、この本がヒットするという予感は発売前から持っていたようだ。

「私はこの本を学生の頃に父親から勧められて読みました。非常に心に染みるものがあって、自分の好きな本を並べる書棚には常に入っているイメージですね。ただ、出されたのは戦前の1937年。なにぶん古い本なので、仮名遣いも昔のままですし、時代背景も異なるので、まさに『名著』という風に思っていたんですね。

その中で、たまたまうち(マガジンハウス)の編集部の、まだ30代なかばの編集者から立て続けに『この本、良いですね!』と言われたんですよ。そこで『もしかしたらこの本は今でも通じるかもしれない』と思って、漫画化の企画を考えたのがスタートでした」(鉄尾氏)
実用書やビジネス書の漫画化は、今の出版業界のブームだ。トマ・ピケティの『21世紀の資本』や、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』も漫画化されている。

「ただ、『君たちはどう生きるか』はハウツー書ではない、新しいタイプの漫画になるんじゃないかという見通しはありました。

一番自信をつけさせてくれたのは、発売前に丸善日本橋店で行った先行販売です。店長の篠田さんにゲラを見せたところ、すぐに気に入ってくれて、『この本は力がある』と言ってもらいました。先行販売は発売日の10日前から行ったのですが、確か3ヶ所くらいで展開したのかな? 非常に大きく展開されまして、売れ行きも良好。『これはいけるかもしれない』と自信がつきました」(鉄尾氏)
編集者の目、書店員の目。そうくれば文化人の目も『君たちはどう生きるか』の持つ力を逃すはずがない。発売から間もなくして、糸井重里氏がツイッターで『漫画 君たちはどう生きるか』を絶賛し、さらに広がりを見せた。

■「タイミングが良かった。バブルの頃なら売れなかったかもしれない」

『漫画 君たちはどう生きるか』に寄せられた読者からの感想を見ると、小学生から老人まで「老若男女」と呼ぶにふさわしい年齢層が賛辞を送っているが、発売当初は特に50代、60代以降の声が比較的多かったという。

「これは狙い通りというところです。

30代、40代の人たちにも通用する事実は力強かったですが、最初は50代以上がターゲット。『君たちはどう生きるか』を読んだことがある、もしくは名前は聞いたことのある世代です。まずはその世代をメインターゲットにすることで、そこから(下の世代に)広がるという流れを考えていました」(鉄尾氏)
この鉄尾氏の狙いは、確かに当たった。

「読者からの感想を見ると、孫や子どもにプレゼントしたい、読ませたいから購入したという声も多かったですね。ただ、そう思って買ってみたところ、自分が熱中してしまったと書いて下さった方もいました(笑)」(鉄尾氏)
すでに発行部数は50万部を超え、今や全世代的に読者が広がっている。1937年に刊行された本書になぜこれほど現代人の心を引き寄せるのだろうか。鉄尾氏はこう分析する。

「糸井さんもおっしゃっていましたが、タイミングは大きいと思います。もし、バブルの頃であれば、ここまでは売れなかったでしょう。

この本が出版された1937年は戦争が始まる少し前。日本人の価値観が揺らいでいた時代でした。自分自身がどう生きるかを考えさせる本書は、非常に本質的な問いを投げかけます。バブル崩壊後の長い不況の中で価値観が揺らいでいる現代の不安な日本人は、『どう生きるか』ということから目を背けられなくなっているのではないかと思いますね」(鉄尾氏)
『君たちはどう生きるか』にこんなシーンがある。友人たちが上級生から制裁(いじめ)を受けているのをただ見つめるコペル君。ともに立ち向かうことを約束し合ったにも関わらず、いざその時になり、足を踏み出すことができずにいる。

『漫画 君たちはどう生きるか』と同時発売となった新装版『君たちはどう生きるか』(現在までに14万部発行)の冒頭に、ジャーナリストの池上彰氏がこの象徴的なシーンに託けて、次のようなコメントを寄せている。

人がいじめられていたり、暴力を振るわれていたりしたときに、止めようとしても体が動かない。似たような経験をした人は多いはずです。身につまされる話ではないでしょうか。本当に勇気とは何かを考えさせられます。

この本は、そのとき自分はどうすればいいかを、まさに自分の問題として考えることになるのです。(新装版『君たちはどう生きるか』P7より引用)
この感覚は普遍的なものだろう。コペル君を通して、読者は自分自身に問いかける。「自分はどう生きるか」と。その一言が、前が見えない、不安だらけの時代に生きる自分に重くのしかかるのではないだろうか。

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