【ドローンキーパーソンインタビューVol.4前編】『DRONE』は現場主義

2016.11.9 12:05 更新

読了時間:13分45秒

『DRONE』編集長 猪川トム氏

『DRONE』編集長 猪川トム氏

ドローン専門Webメディア『DRONE』。国内外のドローン関連ニュースや新製品レビュー、いろいろな専門分野のコラムなど、ドローン業界では有名なサイトだ。そのサイトで編集長を務めるのが、今回ご紹介する猪川トム氏。プロ向け映像制作ツール活用のためのWebマガジンとして有名な『PRONEWS』の編集長も務め、国内外のドローン関連展示会にも自ら足を運ぶ猪川氏は、現在の日本のドローン市場・業界をどのようにとらえているのだろうか。猪川氏だからこそ見えるドローン業界の未来についても聞いてみたいと思う。

ドローン専門メディア『DRONE』立ち上げのきっかけ

『DRONE』サイトトップ

『DRONE』サイトトップ

【田口】『PRONEWS』編集長で、取締役でもある猪川さんが、ある日突然、『DRONE』を立ち上げたんですよね。そこにはどういった経緯があったのでしょう?

現在運営しているPRONEWSは、プロ向け映像制作ツール活用Webマガジンで、映像に関することはいち早く伝えたいというポリシーがあります。

旧来の空撮分野は、特殊な位置付けで、予算はかかるし機材も巨大でした。そこにキラ星のごとく現れたのがドローンでした。ヘリコプターだと入れない場所も入ることができるでしょう?ジンバル(カメラを常に水平に保つ仕組み)が登場してから、ドローンの空撮はすごく面白いなと思って興味をもっていたんです。だから『PRONEWS』の中でも、おそらく2014年ぐらいから、ドローンの記事は結構掲載していました。

【田口】そうなんですか。その頃はDJI社のPhantomだと「2」の時代くらいですよね?

そうですね。PhantomがGoProを付けて空撮していた頃ですね。「空撮面白いよね。これは来るな」という機運が高まって、そこから『DRONE』を立ち上げることになるのですが、一番のきっかけは、“drone.jp”というドメインを取得したことです。

【田口】“drone.jp”なんてそのものズバリなドメインをよく取得できましたよね。ドメイン取得にどんな手を使ったんですか?(笑)

当然の如く“drone.jp”というドメインは以前に持ち主がいたんですよ。ただ、その方は別業種の方で、ドローンという意味で使用されてはいませんでした。その方がドメインを手放したところにタイミングよく取得したという経緯です。これもまさに時代の流れでしょうか。取得は2015年の年明けぐらいですね。その頃、ドローンのメディアの名称は、『PRONEWS』に合わせてドローンニュース(DRONENEWS)に決定直前でした。でも、どこか落ち着かない感じがありました。そこにドンピシャのドメイン“drone.jp”を取得して、メディア名も『DRONE』に決まりました。

【田口】 そうだったんですね。それにしても、猪川さんが初めてドローンを知ったのはいつごろですか?

2013年に SXSW (サウス・バイ・サウスウエスト)というイベントで初めてドローンの話を聞きました。スタートアップ企業などが面白いことをやろうとしていて、Twitterが生まれたイベントとしても有名ですね(前身は1980年代の音楽祭)。そこで、ドローンが活況だと聞いたのです。

ぱっと見た感じ、ラジコンと何が違うのだろう?というのが私感でした。説明を聞くにつれ興味をもちました。ラジコン的にただモーター駆動させるのではなくて、いわゆるコンピュータで全てを制御飛行していることを知り、さらに驚きました。また同時期にクリス・アンダーソンの『わが愛しのドローンHERE COME THE DRONES』という本を知り、「俺と同じこと考えているな」と思ったのを覚えています。そこから1年を経て、『PRONEWS』の次のメディアとして『DRONE』が生まれることになります。

【田口】空飛ぶコンピュータ=ドローンがビジネスを変える!と感じたのですね。

そうですね。本当にドローンって「すごいな!」と思いましたよ。機能美など最適化されたものや効率化されたものが好きなんです、最小限で最大効果を生むものが。

先日、DJIの最新機種MAVIC PROをプレゼンしていたのは、テキサス工科大学出身のマーク・ペリー氏です。彼はSXSWでも会いましたし、以前、初めてDJIに行って会ったときも、「SXSWでドローンを知って、まさか深セン(中国 広東省にある世界最大規模の電脳都市)がドローンの一番のメッカだと思わなかったよ」という会話を交わしました。世界は広くて多様性に満ちています。ドローンを通じて、様々なことが繋がっていくのを目の当たりにしています。

猪川編集長がメディアを運営する上でのこだわり

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【田口】深センといえば、『DRONE』が立ち上がってすぐのころ、深センのDJI本社へ訪問取材に行っていましたよね。

非上場で全世界7割の市場を持つ世界一のドローン企業が中国深センにあると聞きました。それがDJIだったわけです。じゃあ、その総本山に行くしかない! ということでコンタクトをとり始めたのですが、当時、メディア取材はほとんど断っているということでした。大手メディアも門前払い。特に日本のメディアはあまり意味がないと言われていたらしいですね。現在はそうでもないみたいですが…。けれども、そこを何とかこじ開けました。

実際に深センの本社を訪問して、インタビューさせてもらいました。『DRONE』の基本ポリシーは、現場主義です。自分で見たものが全てだと思っています。体験こそ全てです。例えば、美味しいレストランの情報だけ掲載していることと、実際に足を運び、味を知っていることは全く違います。であれば、できる限り現場に向かう。その場に「行く」というのがテーマです。Webメディアの中には、人の一次情報をそのまま無断利用してコピペでコンテンツにするところも少なくないのですが…。そういう状況の中で『DRONE』は、現場主義を貫こうと思います。

【田口】メディアの立ち上げから1年経ってどのように変わりました?

僕も『DRONE』を立ち上げて、様々な場所に足を運びました。とにかく足を運んで、実際に人に会い話を交わし、いろいろな記事を作り始めたんです。New Yorkで開催されたPhantom4の発表会に行ったメディアは、アジアでもなぜかウチだけでしたからね。それで「こいつら、いつもいるな」みたいな印象にはなりましたよね(笑)。

その結果、多少はドローン業界について詳しくなりましたよ(笑)。それでも世の中が思うドローンの理想と現実の乖離が大きいですよね。一般誌のドローン記事でも、誤ったものが多く散見されますよ。大手新聞社さんでさえ、とある会社のFRP製のドローンのモックアップ用に作っていたやつに対して、「これが空を飛ぶ」みたいなことを書いていて(苦笑)。そういう状況を見ると、そのギャップを埋めていくのが我々のミッションかなと思ったりしますね。

海外と日本のドローン業界の違い

【田口】日本のドローン関連展示会は海外の展示会と比べてどうですか?

大きく違う印象があります。おもに北米、ヨーロッパと日本の比較になりますが、国民性の違いは大きいでしょうね。超積極的です。自分の商品のことを自分の言葉で話しますからね。詳しいなと思ってもバイトだったりしますし。「昨日の説明と違うのだけど?」と聞いても、「あいつはバイトだから、知るわけがない」とか日常茶飯時です。一方、日本では核になる部分をほとんど開示しないですよね。聞いても、無難な定型文に落ち着くという…。

【田口】やっぱりその辺は海外の展示会を生で見ないと、最新の情報まではたどり着けないという感じですか?

万事そうですけど、足で稼いで自分の目で見ることは重要です。遠路はるばる行くと「よく来てくれたね。そのことについては語るよ」と言ってもらえる恩恵はありますね。核心をついた話ができることが多いですね。

海外で配布する予定の『DRONE』のステッカー。カタカナは海外でウケがいいそう

海外で配布する予定の『DRONE』のステッカー。カタカナは海外でウケがいいそう

【田口】自分も国内の展示会をいろいろと見させてもらうのですが、名前を聞いたこともないようなメーカーから革新的な技術が展示されていて面白いですよね。

玉石混交なのが一番面白いですよね。海外はもっとひどいですよ。完全に音が消えるドローンのモックアップに対して「実物を見せてよ」とリクエストしても、「今はできない」って言われて(笑)。「いつ発表するの?」って聞いたら、「来月…」って答えるんです(苦笑)。確実性がないというか、提案がほとんどです。しかしその中に宝物が埋もれているので足を運ばずにはいられないのですよ。

【田口】海外のドローンに対する意識というか雰囲気は、日本と比べてどうですか?

日本は幸いにも空モノ(飛行機・ヘリコプターなど)のラジコン文化があります。後発のドローンとの空白期間がないんですよね。ラジコン層のパイロットも豊富ですし、ラジコンとドローンの両方を扱う人もいますし、そういう意味では日本の層は厚いのではないでしょうかね?

それに対して、アメリカはラジコンユーザー層が抜けているように思います。海外の人の特性として、一旦好きになったら集中して極めますよね。そこら辺のパワーが違いますよね。そういう意味では、ドローンユーザー層がアメリカでは急激に増えているのだと思います。

ラジコンの醍醐味は、操縦習熟度を上げるとか、改造するとか、いろいろな楽しみ方がありますよね。ラジコンは自動制御でホバリングしないので、自らの経験と技術でカバーする楽しみ方とか。でもアメリカ人は、火を起こすよりもライターを使っちゃうというか、ツールに頼って楽をするような、そんな国民性はあるのかなと感じます。

【田口】日本のドローン業界はすそ野が広いわけですね。

おそらくドローンに紐づく人が豊富だと思います。産業、コンシューマー、コマーシャル、レース、開発、オペレーション、ドローンの文化を語りたい人、ドローンでビジネスをしたい人などなど。いろんなところでプレゼンさせていただきますが、ドローン×サムシング(何か)が今なら成立するなと思っています。

 

もともと「映像制作ツール」と「メディア」という視点からドローンに興味をもった猪川さん。『DRONE』の編集長として、現場の生の情報をコンテンツ化するというこだわりから国内外を問わず現場に足を運び、結果としてドローンに対するオンリー・ワンの知見を手に入れた。スピードが早いドローン分野だからこそ、ネットの情報や他メディアの情報ではなく、現場に行くことが重要であるとわかった気がした。後編では、そんな猪川さんの視点から見る注目のドローン事業分野や業界の裏話などを、より詳しくお伺いする。

 
インタビュアー紹介
田口 厚

インタビュアー:田口厚株式会社 Dron é motion(ドローンエモーション)代表取締役
1998年〜IT教育関連NPOを⽴上 げ、年間60回以上の⼩学校現場における「総合的な学習」の創造的な学習⽀援や、美術館・科学館等にてワークショップを開催。その後Web制作会社勤務を経て中⼩企業のWeb制作・コン サルティングを主事業に独⽴。
2016年5⽉株式会社Dron é motionを設⽴、IT・Web事業のノウハウを活かしながら空撮動画制作・活⽤⽀援を中⼼に、ドローンの活⽤をテーマにした講習等の企画・ドローンスクール講師、Web メディア原稿執筆等を⾏う。「Drone Movie Contests 2016」 ファイナリスト。
http://www.dron-e-motion.co.jp/

 


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